請願第5号 消費者被害を防止、救済するため、特定商取引法の抜本的な法改正を求める意見書を政府等に提出することを求める請願
受理日:令和6年2月9日
付託委員会:総務
付託日:令和6年2月26日
審査結果:採択(全員賛成)
議決日:令和6年3月26日
議決結果:採択
採決状況:賛成27人、反対0人
村田穣史
【請願趣旨】
佐倉市議会が、国会及び政府に対し、幅広い世代の消費者被害を防止、救済するために、特定商取引法の抜本的改正を求める意見書を提出していただくよう請願いたします。
【請願理由】
1 特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」といいます。)は、訪問販売等消費者トラブルを生じやすい特定の取引類型を対象に、事業者による不公正な勧誘行為等の取締り等を行う法律です。
これまで同法は、幾度も改正が繰り返されてきましたが、2016年の法改正(以下「平成28年改正」といいます。)の附則第6条に、「政府は、この法律の施行後5年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」とのいわゆる5年後見直しが定められました。
そして、同改正法の施行が2017年12月1日であることから、2022年12月1日に5年後の経過を迎えました。
2 令和4年版消費者白書によると、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談は85.2万件であり、ここ15年ほど高止まりが続いている状況です。そして、この消費生活相談のうち、特定商取引法の対象取引分野に関する相談は全体の54.7%という高い比率を占めています。
そして、令和4年版消費者白書によれば、65歳以上の高齢者の相談では、特定商取引法の対象取引分野のうち訪問販売の割合が14.4%、電話勧誘販売の割合が8.1%であり、65歳未満の割合の2倍を超えています。さらに、令和4年版消費者白書によると、認知症等高齢者においては、訪問販売・電話勧誘販売の相談が48.6%と圧倒的多数を占めており、判断力の衰えた高齢者が悪質商法のターゲットにされていることがうかがわれます。
また、令和4年版消費者白書によると、世代全体で見ると、インターネット通販に関する相談が27.4%と最多となっており、デジタル社会の進展やコロナ禍の影響からインターネット通販におけるトラブルが増加しています。
さらに、マルチ取引は、相談件数全体に占める割合は1.1%であるものの、20歳代においては5.1%と高い比率を示しており、今後は令和4年4月の成年年齢引下げに伴う被害の増加が心配されます。
以上により、平成28年改正後も特定商取引法の対象取引分野における消費者相談は高止まりを示しており、幅広い世代の消費者被害を防止、救済するためには、この5年後見直しを機に、特定商取引法の抜本的改正がなされることが急務となっています。
3 具体的には、特定商取引法における対象取引分野のうち、訪問販売・電話勧誘販売、通信販売、連鎖販売取引(いわゆるマルチ取引)について、以下のような改正がなされるべきです。
(1)訪問販売・電話勧誘販売について
消費者が望んでいない訪問や電話による勧誘は、高齢者などを中心に、断り切れずに不本意な契約をしてしまうことが少なくなく、消費者トラブルの温床となっています。そして、特定商取引法は、第3条の2第2項や第17条において、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止しています。
そこで、少なくとも消費者が勧誘を拒絶した場合には、訪問販売、電話勧誘を受けたくないという消費者の意思の尊重を徹底する仕組みが必要です。
訪問販売においては、消費者が「訪問販売お断り」と記載された張り紙等を家の門戸に貼付した場合には、特定商取引法第3条の2第2項による「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすることが考えられ、また、電話勧誘販売においては、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる登録制度、すなわち、電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録機関に登録することとし、登録された番号には事業者が電話勧誘することを禁止する制度(Do−Not−Call 制度)を導入すべきです。
さらに、訪問販売や電話勧誘販売においては、店舗販売と比較して、店舗を持つことなく営業を行うことが可能であることから、信用力の低い事業者の参入も容易であり、不正な勧誘行為を行いながらその所在を変えて事業を繰り返すことも可能となっています。そこで、訪問販売や電話勧誘販売においても、店舗販売に準ずる信頼を確保するために、事業者の登録制を導入すべきです。
(2)通信販売について
現在の特定商取引法では、他の特定商取引法の取引類型と異なり、通信販売については、再勧誘の禁止や威迫困惑行為の禁止等の行政規制が定められておらず、また、クーリング・オフや不実告知による取消権等も設けられておりません。
そもそも、特定商取引法の通信販売は、消費者がカタログを閲覧して申込みをする形態やインターネットで自らがウェブサイトを閲覧し、吟味した上で申込みをする形態が想定されています。
しかしながら、近年、通信販売で急増している消費者トラブルにおいては、消費者が自ら積極的に通信販売業者のウェブサイトを閲覧して申込みをする のではなく、消費者が日常的に利用しているSNSを通じて事業者からメッセージが送られてきたり、SNS上の広告を見たことがきっかけでインターネットを通じて事業者やその関係者から勧誘され、申込みに誘導される例が多くみられます。
このような手段による勧誘は、消費者からすれば、突然一方的に示されるものであって不意打ち性が高く、また、スマートフォンなどを用いた一対一でのやりとりが中心となるため、密室性が高い点で、訪問販売や電話勧誘販売と同様の問題点があります。
そこで、このようなインターネットを通じて勧誘が行われる場合には、通信販売においても、行政規制やクーリング・オフ及び不実告知等の取消権を規定するべきです。
また、現在、通信販売業者による解約・返品に関する受付体制整備義務や解約・返品の申出方法(解約受付方法)についての規制は特段存在しません。
しかし、インターネット上の通信販売に関するトラブルにおいて、ウェブサイト上で購入の申込みを受け付けている通信販売業者が、ウェブサイト上での解約受付体制を設けていないケースや、近年増加しているサブスクリプション契約でも解約方法が分からない等のトラブルが発生しています。また、同様に「電話による解約のみ受け付ける」旨を表示しておきながら、消費者が架電しても一向につながらず、解約ができないケースも見受けられます。
そこで、インターネットを利用した通信販売において消費者が解約を希望する場合、契約申込みと同様の方法(ウェブサイト上の手続き)による解約申し出の方法を定めることを通信販売業者に義務付け、迅速・適切に解約・返品に対応する体制を整えさせることが必要です。
さらに、インターネット広告画面の中には、消費者の誤認を招く不公正な表示がなされている事例が少なくないことから、広告表示においても、通信販売業者が網羅的で正確かつわかりやすい広告を行うなど、広告表示の透明性確保を法令等で明確化することが必要です。
また、インターネットやSNS上の詐欺的な広告や勧誘を見て通信販売を利用した消費者が被害を被った場合でも、その広告上に通信販売業者の氏名や名称、住所などが十分に記載されていないことから、訴状における当事者の特定ができず、被害回復を図れないケースが多くみられます。
そこで、連絡先が不明な通信販売事業者及び当該事業者の勧誘者等により自己の権利を侵害された者は、SNS事業者、プラットフォーマー等に対し、通信販売業者及び勧誘者を特定するための情報の開示を請求できるようにすべきです。
(3)連鎖販売取引(いわゆるマルチ取引)について
全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO−NET)によるマルチ取引に関する消費生活相談の件数は、毎年ほぼ1万件以上の相談が続いている上、2020年度の相談件数1万171件のうち、20歳未満及び20歳代の相談件数が4,996件と全体の49%を占めるなど、近年は、若者がトラブルに遭う割合が増加しています。
勧誘方法も、インターネット等を利用してメール、SNS等によるものが増加しており、組織の実態、中心人物の特定やその連絡先を知ることができず、自分を勧誘した相手方の素性もわからないなど、被害の回復が困難なケースが増加しています。
そもそも、マルチ取引においては、単なる物品販売とは異なり、特定利益の収受を目的として、一定期間にわたり取引を続けることが想定されることから、連鎖販売取引業者には、組織、責任者、連絡先等を明確化させ、取扱商品・役務の内容・価額、特定利益の仕組み、収支・資産の適正管理体制、トラブルが生じた場合の苦情処理体制や責任負担体制の明確化が求められるものというべきです。
そこで、連鎖販売取引について、国による登録・確認等の開業規制を導入するべきです。
また、近時、物品販売等の契約を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む事例、つまり、特定取引の収受に関する説明を後出しするマルチ取引(以下「後出しマルチ」といいます。)のトラブルが増えています。
後出しマルチは、大学生などの若者がターゲットにされることも多く、簡単に利益が得られるかのような勧誘を受けて、借金などをして投資に関する情報商材等を購入したものの、勧誘時の説明と異なって利益が得られない事態となった場面で、「他の者(友人など)を勧誘して情報商材に関する契約を獲得すれば、利益が得られる」などと勧誘し、借金の返済に窮した消費者が自らも勧誘員となって新規契約者の勧誘に走るという構造にあります。後出しマルチの手法によって勧誘員となった者は、購入した情報商材等が説明どおりの価値を有しないことを認識した上で他者の勧誘に走る点で、新規契約者を獲得することによって利益を得ることを目的とした不当な勧誘が繰り返されやすいという点で、問題性が非常に高いと言えます。
そして、現在の特定商取引法第33条第1項では、特定利益を収受し得ることをもって誘引し、特定負担を伴う取引をすることが連鎖販売取引の要件とされていることから、後出しマルチを展開する事業者などは、特定負担の契約締結時に特定利益を収受し得ることを誘引行為として用いないから特定商取引法の適用がないものと主張し、クーリング・オフによる解約に応じない事業者も存在しています。
そこで、特定商取引法第33条第1項を改正し、現行法の連鎖販売取引の定義規定に後出しマルチの類型も加えて、脱法的な後出しマルチ取引を防止する必要があります。
また、前述の若者がトラブルに遭うケースが増加していることからもわかるように、社会的経験が乏しい者との間のマルチ取引は、そもそも、顧客の知識、経験、財産の状況、契約締結の目的に照らして不適当な勧誘を行ってはならないという適合性原則に違反するものというべきです。また、先行する契約の際に債務を負担しているケースや、前述の後出しマルチのようなケースは、他者を勧誘することによる利益を得ることが目的となるあまり、無理な勧誘を行いがちとなるため、そもそもそのような者に対する紹介利益提供の勧誘自体を禁止すべきといえます。そこで、22歳以下の者、先行する契約として投資等の利益収受型取引を締結した者、先行する契約の対価に係る債務を負担している者など不適合者に対する紹介利益提供契約の勧誘等を禁止すべきです。